2017年5月28日日曜日

国難の時代、日米親善に命を捧げた駐米大使 斎藤博 vol.2

斎藤博が駐米大使に任命されたのは昭和6(1931)に発生した満州事変、そして翌7年の満州国建国によって日本は国際社会から批判を浴び、ついに83月には国際連盟を脱退するという事態に立ちいたった深刻な状況の時でした。彼はワシントンでの多忙な外交交渉の日々の中で、いったん帰国した1日をさいて母校日本中學を訪問し、後輩たちに日米関係についての記念講演をおこないました。その時の講演内容が今日残されているので、その要旨をご紹介いたします。(引用及び参考文献-日本学園百年史、日本心、梅窓会報)
(写真はクリックで拡大してご覧いただけます。)


斎藤博駐米大使講演
昭和993日 日本中學校講堂

「本日御招きを受けまして、今や三十余年前になります昔の思い出が胸に浮び、うたた感慨の無量なるものがございます。のみならず、本校は私にとりましては、父の代から長い縁のつながるもの。ここに皆様の元気に満ちた御顔を拝見しながらお話申してゐます私には、言葉に尽くせない懐かしさ嬉しさで一杯でございます。皆様の帽子、あれに付けられている八咫の鏡、これは申し上げる迄もなく、日本の歴史上重大な意味のあるもの。…八咫の鏡を帽子の徽章にしてゐられる皆様は、誰よりも自らを省みるといふことをリマインドされているわけでございませう。かうして自省、反省といふことを朝夕教へられてゐる皆様は、今も校長先生が仰ったやうに季節も秋に入り燈火親しむべき折でもありますから、ますます御勉強下さって、やがて国家のために御奮闘なされる準備を十分整へられんことを、お願ひいたします。…目下重大とされてゐます日米関係について簡単にお話し申しませう。わが日本とアメリカとの関係と申しましても、今日大切と思はれるのは次の二つでございませう。一つは満州問題に関するアメリカの態度は何うであるか。もう一つは日米間の通商問題であります。最近の世界の歴史をひもときましても、通商問題が原因になって戦争の始まったことは度々ございますから、なかなか重大な問題。この二つにつぐのが長年の懸案であります移民問題。このほか、ヨーロッパの諸国にも関係のある海軍の軍縮問題がございます。これ等に就きまして簡単に御説明申しませう。」

と述べ、アメリカの満州に対する日本外交の問題のなかで具体的に例証しつつ、平和的にアメリカが満州国を承認するであろうとする斎藤の外交上の自信を表明し、また移民問題の解決も明るいことなどを紹介している。その他通商上の問題、海軍軍縮問題などにもふれた上で最後に次のように結んだ。


「之を要しまするに、日米間に政治的に見ましても、経済的に見ましても、剣をとって争はねばならぬと云うふやうなものは目下の所一つもございません。のみならず、アメリカ政府は『何処迄も仲良くせよ』と唱へて居る。大統領の言葉をかりますればグット・ネイバー・フッド、善隣主義、皆仲良くしようと云ふ主義を採って居りまして日本が根本精神として侵略と云うやうなことを考へずに、本当に東洋に立派な平和を確立し、安寧秩序を確立すると云う大方針を持って進んで行きますならば、そして、その点から世界の平和に貢献すると云う行き方を採るならば一つも心配することはない。世界各国をして納得せしむることが出来る。
又私は小さな力であるが、アメリカに於て彼の国の人々に其点を納得させる。私はさう云ふことを自分の任務と心得て是から赴任致しますが、就きましては、背後に諸君、日本中學校の諸君ありと云ふことを時々想ひ出して、私の励みにしたいと思って居ります。ご清聴下さいまして、まことに有難うございました。」
(日本中學校『日本心』第四巻、第九号-昭和9年9月20日発行)

日本中學校-淀橋校舎前にて記念撮影
前列中央が斎藤大使、その左が猪狩又蔵第三代校長 

斎藤大使が父子二代にわたって日本学園とかかわりあい、またいかに母校を愛していたか、講演の冒頭末尾の部分で理解できるところであります。最後に次のことを付記いたします。一号館を設計された早大の今井兼次教授がヨーロッパ留学の帰路、アメリカに立ち寄り、当時ニューヨーク総領事であった先輩の斎藤を訪ねた時の話です。

「大先輩で後の斎藤博駐米大使をお訪ねした時、書斎の書棚は全部愛読の洋書で埋め尽くされて居りました。そして、その中にただ一冊だけしかも杉浦重剛伝の和書名が私の目を射ぬきました。この一事で斎藤博大使がいかに母校の創立者である杉浦先生を尊敬していたかは今更多言を要しない。」
(日本学園梅窓会報第四号-昭和3677日発行)

多摩霊園に眠る斎藤大使。墓石の傍に杉浦重剛先生が愛した白梅の木が植えられ、慈しむように花が咲いておりました。また左の碑には友人代表として吉田茂元首相の名が刻まれています。2月26日命日の翌日2017.2.27撮影。

日本学園資料室委員会
梅窓会広報部会

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